一般的な労働者と違って、特殊な勤務形態をとっている運送業界ですが、「複雑でわかりにくい!」といった声をよく耳にします。
これは勤務開始から終了までの間、管理状態にある仕事と違い、トラック業界の勤務時間は一度出庫すればあとはドライバーの裁量によるところが多い仕事であるため、勤務中に管理者が把握しづらいということも要因として挙げられます。
そこで、現実的に規定通りに守ることは非常に厳しいですが、「改善基準告示」で定められている勤怠管理や乗務割の理解度を進めるための解説をしていきます。
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準とは?
以前のトラック業界は、休みも全くなかったり、長時間の運転は当たり前で、ほぼトラックの寝台で寝泊まりする生活みたいな状態もあり、ドライバーにとってはかなりの負担がかかっていました。
しかしながら疲労や寝不足による重大事故が多発したことにより、トラックドライバーの労働条件を向上するために労働省から告示が出されることとなりました。
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準
(貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の拘束時間等)
第4条 使用者は、貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の拘束時間、休息期間および運転時間については、次に定めるところによるものとする。
①拘束時間は、1か月について293時間を超えないものとすること。ただし、労使協定があるときは、1年のうち6か月までは、1年間についての拘束時間が3516時間を超えない範囲内において、320時間まで延長することができる。
②1日についての拘束時間は、13時間を超えないものとし、当該拘束時間等を延長する場合であっても、最大拘束時間は、16時間とすること。この場合において、1日についての拘束時間が15時間を超える回数は、1週間について2回以内とすること。
③勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与えること。
④運転時間は、2日(始業時刻から起算して48時間)を平均し、1日あたり9時間、2週間を平均し1週間あたり44時間を超えないものとすること。
⑤連続運転時間(1回が連続10分以上、かつ合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間)は、4時間を超えないものとすること。
2.使用者は、貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の休息期間については、当該自動車運転者の住所地における休息期間が、それ以外の場所における休息期間より長くなるように努めるものとする。
3.第1項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する場合には、拘束時間および休息期間については、厚生労働省労働基準局長の定めるところによることができる。
①業務の必要上、勤務の終了後に継続して8時間以上の休息を与えることが困難な場合
②自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合
③自動車運転者が隔日勤務に就く場合
④自動車運転者がフェリーに乗船する場合
4.労使当事者は、時間外労働協定において貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者に係る一定期間についての延長時間について協定するにあたっては、当該一定期間は、2週間および1か月以上3ヵ月以内の一定の期間とするものとする。
5.使用者は、貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者に法第35条の休日に労働させる場合は、当該労働させる休日は2週間に1回を超えないものとし、当該休日の労働によって第1項に定める拘束時間および最大拘束時間の限度を超えないものとする。
6.前各項の規定は、旅客自動車運送事業および貨物自動車運送事業以外の事業に従事する自動車運転者について準用する。
上記が基本的な労働時間等について決められている事項ですが、ざっと読んだところで運送業独特の時間ルールは簡単に理解はできません。
まずは時間の種類をこまかく分けると次のようになります。
拘束時間
ドライバーが出社し、退社するまでの時間のことです。
この拘束時間には労働時間、休憩時間、運転時間、待機時間がすべて含まれます。
労働時間
会社の就業規則で決められている所定労働時間と残業時間を含めた、実働している時間のことです。
休憩時間
労働基準法で決められた、拘束時間内にドライバーが自由に使える時間です。
食事や仮眠、一服などはできますが、当然飲酒などはできません。
運転時間
ドライバーが荷物を運搬するために車両を運転する時間です。
最大運転時間、連続運転時間のルールがあり、タコグラフなどで把握する必要があります。
待機時間
いわゆる荷待ち時間であり、自由に使える休憩時間と違って労働時間に含まれる時間です。
休息期間
休息期間については「使用者からの拘束を受けない時間」、つまりドライバーが完全に会社から解放されて生活のために使う時間であり、上記の他の時間とはまったく異なります。
つまり、大きく分けると拘束時間と休息期間の2つに大別され、複雑な時間ルールを把握するためには拘束時間についてよく理解していかなければなりません。
各時間のルール
種別された時間にはそれぞれルールがあり、複雑ですが内容を把握しておく必要があります。
特に拘束時間についてはより注意すべきです。拘束時間オーバーを繰り返した結果、事業許可取り消しとなった事業所もありますので、ここはしっかりと把握しておきましょう。
拘束時間のルール
1日 | 1月 | 1年 |
原則13時間。16時間まで延長可能。
ただし、15時間を超えるのは週に2回まで。 |
原則293時間。労使協定で320時間まで延長可。
ただし、320時間まで延長できるのは年6か月以内。 |
3516時間まで。 |
拘束時間については、ドライバーが始業した時刻を起点として24時間以内が1日という計算になります。
たとえば、朝の5時に始業開始とすると、翌日の朝5時までの24時間が1日です。
労働時間のルール
労働時間については、雇用契約や就業規則によってまちまちですが、原則労働基準法で決められた範囲内になります。
休憩時間のルール
これは運送業に限らず、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分の休憩時間。労働時間が8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなくてはなりません。
ただし、運送業の特性上、一斉に休憩を与えることはできませんので、ドライバー各自で休憩時間を取ることになります。
運転時間のルール
運転時間については、最大運転時間と連続運転時間のルールがあります。
・最大運転時間
1日の運転時間の計算は、特定の日を起算日としてその前後の日を2日ごとに区切り、2日平均を9時間以内しなければなりません。
たとえば1月2日を特定日として考えた場合、次のようになります。
特定日の前日(1月1日) | 特定日(1月2日) | 特定日の翌日(1月3日) |
12時間 | 7時間 | 10時間 |
この場合だと、1月1日と1月2日(特定日)の平均が(12+7)÷2=9.5時間になりますが、1月2日(特定日)と1月3日の平均が(10+7)÷2=8.5時間となるため、違反になりません。
次の例でみますと
特定日の前日(1月1日) | 特定日(1月2日) | 特定日の翌日(1月3日) |
12時間 | 7時間 | 12時間 |
この場合では、特定日は9時間以内ですが、特定日の前日と翌日が双方とも2日平均で9.5時間になるため、違反となります。
また、4週間を平均して1週間あたり40時間を超えないようにしなければなりません。
・連続運転時間
まず、トラックを連続して運転できるのは4時間までです。
その4時間以内に1回10分以上、合計で30分以上の休憩時間を入れなければなりません。
つまり4時間ぶっ通しで運転して、30分の休憩をとったり、1時間に10分の休憩をはさんで4時間の運転中に合計で30分休憩をとるという方法もあります。
待機時間のルール
荷待ちなどの待機時間と休憩時間を混同している事業所はまだまだ見かけますが、待機時間はドライバーの自由な時間ではないので休憩時間ではなく労働時間と見られます。
休息期間のルール
休息時間については8時間以上必要です。
つまり、ドライバーが仕事を終えて会社を退社し、次に出社するまでの間が8時間以上空いていないといけません。
1日の拘束時間を最長16時間なのも、休息時間を8時間確保しなければならないからです。(24時間-8時間=16時間)。
注意したいのが、「1日」の考え方がドライバーが始業してから24時間以内であるため、仕事が早く終わって退社、休息期間を8時間空けてまら出社した場合でも、前日の始業した時刻から24時間が経過していないと、出社した時刻に「前日の24時間経過していない時間部分」が加算されてしまうというところです。
拘束時間と休息期間の特例
例外として、拘束時間と休息期間について特例があります。
①業務の必要上、勤務終了後継続して8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合。
これは理由をこじつければ休息期間を与えなくても良いというものではなく、次のルールに沿って厳格に運用されることが求められます。
始業時刻から起算して24時間中に、やむをえず8時間以上継続して休息期間を取れない場合に1回あたり継続4時間以上、合計10時間以上の休息期間を与える場合には、休息期間の分割が認められます。
つまり、原則として休息期間は継続8時間以上と決められていますが、分割する場合には合計で10時間以上与えなければなりません。
また、休息期間を分割して与えることができる勤務は、一定期間(原則2週間から4週間程度)、やむをえない場合であっても2ヵ月を限度として、全勤務回数の2分の1までが限度です。
②1台の車に2人以上ドライバーが乗務する場合
車内に休息できる寝台が設置されていてドライバーが2人以上乗務する場合に限り、最大拘束時間を20時間まで延長することができます。
休息期間については24-20=4時間まで短縮可能になります。
しかしその場合であっても、月の拘束時間は293時間までです。
③ドライバーが隔日勤務に就く場合
業務上やむをえない場合には隔日勤務とすることができ、その場合は2歴日における拘束時間は21時間まで延長することができます。
また、事業所内に仮眠施設等があり、夜間に4時間以上の仮眠時間を与える場合には2週間のうち3回までは2歴日における拘束時間を24時間まで延長することができます。
ただし、その場合でも2週間における総拘束時間は126時間(21時間×6日)までが限度です。
隔日勤務の終了後は、継続して20時間以上の休息期間を与えなければなりません。
④ドライバーがフェリーに乗船する場合
ドライバーが勤務途中にフェリーに乗船する場合には、原則としてフェリー乗船時間は休息期間として扱われます。
他の特例で与えなければならない休息期間の時間から減ずることができますが、2人乗務の特例を除いて、減算された休息期間は、フェリー下船から勤務終了時刻までの時間の2分の1を下回らないようにしなければなりません。
働き方改革によってどう変わるのか?
平成31年4月からスタートした働き方改革ですが、運送業については5年後の2024年度から、時間外労働について罰則付きの上限規制が適用される予定です。
月の拘束時間293時間の内訳として
・法定労働時間(172時間)
・時間外労働時間(99時間)
・休憩時間(22時間)
となりますが、働き方改革によって主にテコ入れされる部分としては「時間外労働(99時間)」の部分になります。
現行の月99時間(100時間未満)を、2024年度には全事業者を月平均80時間までとし、将来的には運転業務以外の一般則の適用を目指すこととされています。
人手不足に加えて、利益率の低いトラック業界にとっては非常に悩ましいところですよね。
時間の管理や効率化などなど、これから事業者にとっていろんな課題が待ち構えています。
ドライバーの拘束時間や労働時間等が定められている改善基準告示まとめ
ドライバーという仕事の特殊性から、一般的な労働者にくらべて拘束時間、労働時間、運転時間、休憩時間、休息期間などがものすごく細かく定められています。
もちろん実際に事業が回っていると、現実問題として、事故やトラブルなどが突然として起きますし、その場その場の状況応じて必要な雑務や教育指導なども際限なく湧いてきますよね。
机上のルールを守りきることは、ハッキリ言ってかなり至難の業です。
しかしながら、時間のルールを知っているのと、知らないのとでは雲泥の差があり、すくなくとも事業所の代表、役員、運行管理者は把握しておくべきです。
「ルール上はこうなっている」という頭が少しでも残っていると、適切な指示も出しやすくなりますよね。
今後は働き方改革のスタートによって罰則付きの時間外労働規制が適用されてきますから、いろんな手段を検討してぜひ自社の改革を進めていきましょう。