ドライバーへ行う指導・教育は日常的に行われている事業所は多いですが、その中でも「貨物自動車輸送安全規則」で定められている、いわゆる法定12項目は年間を通して行わなければいけないことになっていますよね。
貨物自動車運送事業輸送安全規則
第10条(従業員に対する指導および監督)
貨物自動車運送事業者は、国土交通大臣が告示で定めるところにより、当該貨物自動車運送事業に係る主な道路の状況その他の事業用自動車に関する状況、その状況下において事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な運転の技術および法令にもとづき自動車の運転に関して遵守すべき事項について、運転者に対する適切な指導および監督をしなければならない。
この場合においては、その日時、場所および内容ならびに指導および監督を行った者および受けた者を記録し、かつ、その記録を営業所において3年間保存しなければならない。
ただ、色々聞いてみると「おおまかな項目は知っているけれども、実際はどんな内容をやればいいのか分からない」という声もあり、
その内容に沿った資料を準備するのに、これは該当する資料なのかどうかで悩む人もいます。
基本的には国交省の公表している「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル トラック事業者編」に内容が網羅されています。(バス、タクシー編もあります)
しかし文字数も多く、解説も細かいため忙しい中で読み込んでいく作業は非常に大変ですよね。
一般の書籍で法定12項目の教育資料を販売しているところもありますので、そうしたものを活用するのも良いでしょう。
そもそも指導教育をおこなう目的はなにか?
この法定12項目の指導教育をおこなう目的については、国土交通大臣の告示によってえ述べられています。
貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導および監督の指針(国土交通省告示第1366号)
1 目的
事業用自動車の運転者は、大型の自動車を運転したり、多様な地理的、気象的状況のもとで運転することから、道路の状況その他の運行の状況に関する判断およびその状況における運転について、高度な能力が要求される。
このため、貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の運転者に対して断続的かつ計画的に指導および監督を行い、他の運転者の模範となるべき運転者を育成する必要がある。
そこで、貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対しておこなう一般的な指導および監督は、貨物自動車運送事業法その他の法令にもとづき運転者が遵守すべき事項に関する知識のほか、事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な運転に関する技能および知識を習得させることを目的とする。
要するに、普段から長時間運転を仕事とするドライバーは、その場その場の状況に応じて運転の判断を迫られるため、運転や車両等の知識や技能を習得する必要があります。
運行中は会社の目から離れて、ドライバー自身による自己判断をする場面が多大にありますから、そのためのスキルアップが必要ということですよね。
それに伴って、目的としては事故を未然に防ぐことです。
貨物を積載する自動車は、事故が起きると乗用車よりも被害が大きくなりやすく、被害者、ドライバー個人、事業所と、だれもが損害を被って嫌な思いをすることになります。
法定12項目の内容は?
2019年7月現在で12項目が告示されており、いずれもよく聞いたことがあるものばかりですよね。
一つずつ見ていきましょう。
1.事業用自動車を運転する場合の心構え
目的としては、事業用自動車によって起きる交通事故が社会に対して大きい影響を与えることや、安全意識を持って運転することで他の運転者の模範になることを理解してもらうこととなっています。
おそらく後述の項目2の「事業用自動車の安全運行を確保するために遵守すべき基本的事項」と混同してしまうケースが多いのではないでしょうか?
この指導教育を行う場合は、一般的な事故の統計を用いたり、基本動作についての内容等を把握してもらい、「模範的なドライバーとはなにか」を伝えるのが良いかと思います。
2.事業用自動車の安全運行を確保するための遵守事項
この項目で行われている指導内容としては、日常点検の励行や、一連の安全運転を怠って発生した交通事故でどのような処分がされるのかといった、本来やるべきことを伝えるとともに、事故が起きた場合どうなるのかなどの事例を使って指導教育を行うことが多いです。
1の「事業用自動車を運転する場合の心構え」と違い、実際にどのようなことになる可能性があるかを伝えると良いと思います。
3.事業用自動車の構造上の特性
トラックは乗用車と違い、貨物を積載・運搬する目的の車両ですから当然車両の構造も違いが出てきますよね。
たとえば大型免許を取得したばかりのドライバーは、乗用車感覚で運転するパターンが結構多く見られますが、内輪差やオーバーハング、視線の高さや死角も大きく違います。
そうしたトラックと乗用車の違いや、トラックの構造上の特性による事故事例等を指導教育で伝えると良いです。
4.貨物の正しい積載方法
貨物の積載方法については、偏荷重が起きないような積載や、積載時の固縛方式等もありますが、貨物の輸送安全規則でも積載方法について記載されています。
貨物自動車運送事業輸送安全規則
(貨物の積載方法)
第5条 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車に貨物を積載するときは、次に定めるところによらなければならない。
1.偏荷重が生じないように積載すること。
2.貨物が運搬中に荷崩れ等により事業用自動車から落下することを防止するため、貨物にロープまたはシートを掛けること等必要な措置を講ずること。
上記のように、積載のポイントを伝える場合には①偏荷重、②落下防止、の2点を中心に理解してもらわなければなりません。
また、貨物が落下した場合の事故事例なども活用して指導教育を行うと良いです。
5.過積載の危険性
ここでも前述の貨物の積載方法とリンクする内容ですが、過積載を原因とした事故事例や、過積載運行を行った場合の法令上の処分や罰則についての内容を指導教育していくと良いと思います。
6.危険物を運搬する場合に留意すべき事項
危険物を運搬する事業所は限られているので、危険物を扱わない事業所にとっては「なにをしていいか分からない!」というケースも多いです。
従って、ここではに危険物の運搬にはどんな種類や性状があるのか、危険物を運搬していると走行できない場所はどんなところがあるのか等、一般的な知識として伝えるのが良いと思います。
また、どんな資料を用意するべきかわからない場合は、運送関係から探すよりは、危険物関係の書籍等から探してみると参考になるものが見つかります。
7.適切な運行の経路および当該経路における道路および交通の状況
あらかじめ運行経路が決まっているルート運行の場合は、狭い道路や危険が多い道路についての情報もあるため伝えやすいですが、そうでない場合は豪雨時に避けるべき経路、登下校時のスクールゾーンなどでのヒヤリハット事例を出して指導教育に活用していきます。
天候によって安全に走行できるルートも変わってきますし、時間帯によっても変わってくることがありますので、そうした事例を普段から収集しておくとスムーズに理解してもらえることができますよね。
8.危険の予測および回避ならびに緊急時における対応方法
この項目についてはKYTトレーニングを行うと良いと思います。
その場合でも悪天候によるケースや、一般道、高速道路上などさまざまな状況下での危険予測を想定したり、
万が一その状況下でトラブルが発生した場合にどんな対応をすればいいかを指導教育していきます。
トラブルには交通事故ももちろんそうですが、地震や大雪などの災害も想定して伝えていくと良いでしょう。
9.運転者の運転適性に応じた安全運転
これについては定期的に一般適性診断を受診している事業所については診断結果票を用いても良いですし、そうでない場合はまずドライバー自身が運転中にどんなクセがあるかを把握してもらい、事故の起こしやすいクセかどうかを判断してもらうなどの指導教育をすることで事故防止に繋げていきます。
意外と「前の車が遅いと車間を詰める」といったような事故に繋がりやすいクセを伝えてくる人もいるため、その場合は適切なアドバイスをしていきましょう。
10.交通事故に関わる運転者の生理的および心理的要因ならびにこれらへの対処方法
ここでは事故に結びつく行動、その行動についてどう対処するかを指導教育します。
事故に結びつく行動については過労や睡眠不足、風邪薬による副作用での眠気、飲酒がどれくらい影響があるのか等を事例で伝えるとともに、眠気を感じた場合はどうすればいいのか、服薬や飲酒の量、時間はどれくらい空けたら良いのかなどを伝えましょう。
11.健康管理の重要性
健康診断は基本的に年1回、深夜時間に係る場合は年2回行っていますが、その診断結果をもとに生活習慣の改善を伝えたり、普段の食事バランスや体調に不安がある場合は病院での診断を促すなどの指導教育を行いましょう。
また、最近では健康状態に起因する重大事故の報道も多くありましたので、それらの事例を伝えたうえで健康管理がどれくらい重要か認識してもらうのも良いでしょう。
12.安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
近年安全装置のついたトラックが増え、その装置によっては扱い方が分からないという人も多いため、それがどんな装置なのかを理解してもらうことや、逆に装置が付いていることで過信しないことを伝えたほうが良いでしょう。
たとえば、最近ではバックアイカメラの付いた大型トラックも増えてきましたが、バックカメラの映像だけではなく、窓から目視で確認し、また必要に応じて一度下車して確認してからバックするなど、装置に頼り切らずに念には念を入れて運転するべきです。
法定12項目のまとめ
ドライバー指導教育を行わなければいけない12項目は義務であり、いずれも事故防止を目的とした重要な仕事です。
その指導教育のために必要な教育資料を準備するのも結構大変な作業でもあります。
しかもそれを毎年行わなければいけませんから、教育資料はほぼ使い回しというパターンも結構多く見られます。
そのほか、自社と関係ない部分は省いているというケースもありますが、これら12項目は指導教育後に教育記録簿を作成し、3年間の保存義務があります。
当然、巡回指導や行政監査で指摘される部分ですので、漏れなく行いましょう。
ほぼ毎年、事業用トラックによる重大事故が報道されたり、自動車の技術も変化しているため、常に最新の情報を伝えながら指導教育に役立てていけると良いですよね。