トラック業界では依然として「過労運転」が重大事故の原因となっています。
「疲れているかも」と思いながら出発してしまうこと、
そして「大丈夫だろう」と見逃してしまう管理体制。
その“ちょっとした油断”が、命を奪う事故につながっています。
この記事では、過労運転をどう見抜くのか?
そして、**運行管理者がどこまで責任を問われるのか?**を、実例とともに解説します。
✅ この記事でわかること
- 実際に起きた過労運転の事故事例
- 疲労のサインを見抜く具体的なポイント
- 管理者が問われる「過労運転下命罪」とは?
- 対策としてできること(声かけ・記録・教育)
🛑 実例①|36時間無休で乗務し死亡事故
2016年、山陽自動車道 八本松トンネルで多重衝突・火災事故が発生。
トラックが渋滞中の車列に突っ込み、2名が死亡、73名が重軽傷。
▶ 背景
- ドライバーは36時間一睡もせずに乗務
- 直前3か月の休みは「月3日未満」
- 明らかに過労状態での運転だった
▶ 結果
- 運転者:過失運転致死傷罪で実刑判決(懲役4年)
- 運行管理者:過労運転下命罪で執行猶予付き懲役1年6ヶ月
👀 過労運転を“見抜く”ための観察ポイント
チェック項目 |
疲労の兆候 |
対応のヒント |
顔色・目の充血 |
青白い、目がうつろ、まぶたが下がっている |
「昨日眠れましたか?」と一声かける |
会話の反応 |
返事が遅い、無口、苛立ちぎみ |
会話のテンポ・雰囲気を記録に残す |
姿勢・動き |
フラフラする、重そうな足取り |
荷役時にも観察するのが効果的 |
怪我・不調 |
腰痛・頭痛・吐き気を訴える |
業務に出すかどうか再確認を |
👉 点呼は**健康状態の“最前線の窓口”**です。
少しでも違和感があれば、乗務を一時中止する判断も必要です。
💤 “副業疲労”にも注意が必要
近年は生活費補填や自由な働き方の広がりから、副業をしているドライバーも少なくありません。
配送後に夜間アルバイト、休日は別の仕事…というケースも実際にあります。
📌 一見元気そうに見えても、「勤務外の疲労」が蓄積していることも多いのです。
副業による疲労の例:
- 夕方に退勤後、夜間に警備・運送などのアルバイト
- 深夜配達やギグワーク(フードデリバリー等)との掛け持ち
- 休日に肉体労働の副業をこなしてから翌朝の早朝点呼
こうした状況では、“会社では休んでいるように見える”が、実は全く休めていないということも。
👉 点呼時には、表面上の勤務状況だけでなく、**「実は他で疲れていないか」**という観点でも話を聞いてみることが重要です。
実際に私が運行管理をしていたときも、会社に内緒で副業をしているドライバーがいました。
自分で隙間時間を利用して自由にできる副業をやっているのであれば過労状態になることは少ないと思いますが、他の事業所にアルバイトなどで勤務して拘束時間が発生する副業については過労状態になる可能性が大きくなります。
また、精神的な病気を抱えて異常に仕事をしたがるドライバーもおり、その場合は本人は疲労感がまったくないためいくらでも寝ずに仕事をしようとしますが、体力的にはすでに限界を超えていて結果的に人身事故を起こしてクビになることとなりました。
こうした異変は実際に点呼をしていれば気づくことが多いため、早めに会社側に相談して手を打つなどの対策をしていきましょう。
⚖️ 過労運転下命罪とは?
運行管理者が、ドライバーの疲労を認識しながら乗務を命じた場合、
「過労運転下命罪」(道路交通法第66条の3)に問われることがあります。
▶ 刑罰
- 1年以下の懲役または30万円以下の罰金
- 悪質な場合は業務停止・営業許可取消の行政処分も
👁️🗨️ “いつもと違う”を見抜けるのは、毎日接するあなただから
運行管理者や配車係は、毎日のようにドライバーと顔を合わせる存在です。
そのため、「今日は声に張りがないな」「反応が遅いな」など、小さな違和感に気づける立場でもあります。
- 昨日まで元気だったのに、今日は様子が違う
- いつもは冗談を言う人が、今日は黙っている
- 挨拶のトーンや歩き方に違和感がある
こうした些細な変化こそが、**“過労のサイン”や“事故の予兆”**であることも少なくありません。
📌 管理者の「気づき」は、ドライバーの命を守る防波堤。
日々のコミュニケーションを大切にし、“当たり前の変化”を見逃さない目を育てましょう。
📋 管理者としてできる具体的な対策
取り組み |
内容 |
点呼記録の強化 |
「疲労・睡眠時間・健康状態」の聞き取りと記録を必ず行う |
ドラレコ・勤怠記録との照合 |
「明けの運行」や「残業続き」の乗務を自動的にチェック |
過労運転の研修実施 |
ドライバー向けだけでなく、配車係・管理者にも教育を |
個別面談 |
疲労傾向が見られるドライバーには個別にケア・面談対応 |
🧑⚖️ 管理責任を“果たす”とはどういうことか?
「運転はドライバーの責任」と割り切るのは、現代では通用しません。
- 点呼で見落とした → 管理者責任
- 勤務シフトが無理だった → 配車責任
- 記録を残さなかった → 組織的過失
事故が起きてからでは遅いのです。
「疲れているように見えたが何も言わなかった」では済まされません。
✅ まとめ|過労運転を防ぐのは“人の目と意識”
- ドライバーの異変に気づくのは、AIではなく「人」
- 疲れたら止める、無理させない、声をかける
- 記録に残す、関係者で共有する、改善に活かす
📌 安全運行は、「見逃さない目」と「止める勇気」から始まります。
⚠️ 疲労による重大事故は、今後も“確実に”起きる
技術が進歩しても、どれだけ安全装備が増えても、
「人が運転する以上、疲労による事故は決してゼロにはなりません」。
現実に、過労運転は今なお全国で起きており、
**「まさかうちの会社で」**という声が、事故後に必ず聞かれます。
- ほんの数秒のうとうと
- いつもより1時間短い睡眠
- 無理に引き受けた副業明けの勤務
これらがすべて、命を奪う引き金になり得るのです。
👉 今後も同様の事故は必ず起こる――だからこそ、日々の観察・声かけ・記録が最も効果的な予防策になります。